本日KKR札幌医療センターで緩和ケアの勉強があり出席してきました。 講師は浜松市の聖隷三方原病院の森田達也先生でした。私が後期研修医でお世話になった聖隷三方原病院で緩和ケアを担当されています。私も4ヶ月ホスピスで研修を受けましたが、そのとき森田先生もホスピスにおられ、若手のホープとして臨床、研究に活躍されており、私もとてもお世話になりました。その後森田先生は緩和ケア領域で大活躍され、学会でも中枢となられ、聖隷三方原病院でも副院長をされております。 さて今日の勉強会はとても参考になりましたので備忘録としてブログに書いておきます。 かなり長いので興味のある方だけお読み下さい。間違っていたらごめんなさい。 森田先生

1、鎮痛補助薬
(1)ガバペン ガバペン1800mg+オピオイドVSオピオイド でのRCT。ガバペンが効果あるということで引用される論文。 average painのNRS 33%以上の低下 平均値では有意だが、中程度の差で、10日目には差がなくなっている。 論文におlimited effectと記載されている。
(2)ケタミン RCT ケタミン100-300-500mg/日 vs プラセボ (あらかじめオピオイド+補助薬) average pain 2以上低下を有効した場合は 効果無し 反論もあって、ケタミンが効くタイプの痛みを選んでいないせいではないかという意見もあるとのこと。なんでもかんでもオピオイド、鎮痛補助薬、それでだめならケタミンというパターン化した使い方では効果は期待できないことの方が多いだろう。効きやすいタイプの痛みを選んで使いましょう。
(3)抗がん剤による神経障害性疼痛 デュロキセチン(サインバルタ)が効果あるかどうかの研究 3人に一人はなんとか効くかなという程度。サインバルタはしびれだけの場合は効果はなく、しびれ+痛みのパターンで効果が期待できる。
(4)実際の臨床での鎮痛補助薬の使い方 確実に言えることは「ベストな選択はわかっていない」ということ。 森田先生は内服できるなら リリカ その後サインバルタ、トラマール、トリプタノールなどの下降抑制系作動薬をしよう。だめならケタミンを考慮。もしくは下降抑制系を使用せずケタミンを考慮 内服できない場合はケタミンをしよう 少量20~50mg/日から。10%くらいで幻覚がみられる。キシロカインも効果は弱いが使用してもいい。少量からでも中毒があるので注意。できれば血中濃度を測定しながら使用したい。

2、アセトアミノフェン
(1)オピオイドに対する上乗せ効果 オピオイドが比較的少ない場合(モルヒネで40〜60mg程度まで)は上乗せ効果は期待できるが、オピオイドが大量の場合は効果は見られなかった。(研究ではアセトアミノフェンは4gとか5gの投与)
(2)ちょっとしたコツ ・アセトアミノフェンはそこそこのオピオイド投与を受けている患者さんには鎮痛効果を中程度高める可能性あり。
・がん患者では腎機能障害などでNSAIDsを使用できない場合や運転、眠気などでオピオイドが使用しにくい場合に重要なレパートリーとなる
・使用量、投与間隔、飲み方に工夫が必要 2.4g〜4g 夜も痛ければ分4、日中だけなら分3
・以前はアセトアミノフェン座薬を院内製剤で作ったりもしたが、注射薬の「アセリオ」が発売されたのでそちらを使用すればいい。短時間でたくさん使用すると肝障害が置きやすいので投与間隔、量には注意が必要。

3、呼吸困難
(1)もともと呼吸困難にモルヒネが効果があると認められたのはCOPDの患者さんで、しかも外来に通える比較的元気な患者さんが対象だった。しかも完全に呼吸困難がとれるという結果ではなく、NASで7mm程度の改善だった。
(2)実際の緩和ケアの場面でのモルヒネの使用では症状は改善したのが44%だった。
(3)オピオイド投与前の呼吸数、CO2,O2,呼吸数などを調べたら酸素、二酸化炭素、脈拍は変化なく、呼吸数が40回から25回くらいに低下した。オピオイドで酸素は下がらないというエビデンス。
(4)呼吸困難でモルヒネが有効な病態と有効でない病態 著明な低酸素、呼吸回数24回未満、痰が多い➡モルヒネの効果は期待できない(生命危機が迫っている) それらがなく、不安が強い場合はまず抗不安薬を使用 上記がいずれもない場合はモルヒネのいい適応となる。

4、嘔気嘔吐
(1)制吐治療に対する大きな2つの方針 イギリスなどは病態により制吐剤を使い分けるが米国は病態に関わらずプリンペランかセレネースを使用する この2つの方針を比べる研究があったそうだが、結局有意差がなかった。日本のガイドラインはイギリス方式だが、今後どうするか考えていく必要があるかも。 ➡嘔気嘔吐がある場合はノバミンでOKという感じになったりして…。 (2)制吐剤の種類 ・抗ヒスタミン剤も効果あり、森田先生はトラベルミンを好んで使用している。ノバミンもいいが、錐体外路症状が出ることがあるので注意。アタラックスPを使用している先生もいるが、欧米の教科書では抗コリンの副作用もあることから勧められていない。 ・高齢者ではナウゼリンも使用する(錐体外路症状や鎮静がない) ・化学療法しているときや薬の量が多い時はジプレキサ(2.5mg〜5mg) ・糖尿病でジプレキサが使えない場合はリフレックスという選択肢もあり(7.5mg〜15mg)。高齢者少しくたっとしてしまう傾向がある。若い人で不安の強いに人にはよく効く ・オピオイド導入時にリンデロン4〜8mg点滴という方法もあり

5、倦怠感
(1)リタリン 5年くらい前までは倦怠感でリタリンをしようするといいと言われていたが、RCTでは否定的だった。この研究は定期的に看護師が電話で症状の確認をするデザインだったが、それが一番効果があるのではないという意見あり。看護師による定期的なモニタリングが倦怠感を緩和するという研究もあり
(2)デキサメサゾン8mg 8mg使用の場合はプラセボと比べて効果が認められた。ただ8mg以外は研究されていないので効果はわからない 高齢者などではせん妄を起こしてしまう危険があるので、使用する場合は2mgで2日、4~6mg3日間ほど投与して慣らして、せん妄が出ないことを確認してからステップアップして8mgまでアップする。効果は1週間で判定できるのでだらだらと使用しない。聖隷では「イベント前パルス」と言って、何かイベントがある日を設定してそこにあわせて2日前からステロイド投与をすることもある。

6、死亡直前期の輸液の効果
(1)輸液1000ml vs 100ml RCT だるさ、眠気、幻覚、ミオクローヌスの合計点を比較したところ、有意差なし。寿命も変化なかった。 もともと輸液が必要という立場を取っていた医師の研究だった。その医師はそれが間違いだったことを認め、診療方針も変えたとのこと。 輸液をやってもやらなくても症状の改善度や寿命に変化がないということなので、患者さんとよく相談して、個別で対応すべきだろう。一概にだめとかいいとか言えることではない。 ある意味輸液をしないという選択をした患者、家族には「これでよかった」という安心が与えられるように自信を持って説明する。逆に「輸液をしていること自体が安心、希望」という患者、家族には少量の輸液継続をしてもよい。

7、喘鳴の薬物治療
死前喘鳴の治療は「ハイスコ」とよく書かれているが実際いつもおいてある薬ではないし、使い慣れていないので使いづらいということも多い。 アトロピン0.5mg、ブスコパン20mg、ハイスコ0.25mgで効果を比べた研究では有意差がなかった。 したがってハイスコにこだわる必要はなく、ブスコパンやアトロピンでもよい。 注射を使用したくない場合は硫アト点眼の舌下という方法もあるがこれは効果はあまり期待できない。ただ注射もできないという状況で、「何もできない」ということに対して、副作用もない硫アトの点眼の舌下を使用することは許されるだろう。

8、ノセボ効果=プラセボによって生じた好ましくない反応のこと 倦怠感に対しての無作為化比較試験で、71%にノセボ効果が現れた。何度も色々なスタッフがかわるがわる「倦怠感はないですか」と聞くことで、心配になってプラセボでも副作用が出てしまった。私たちは痛みとか嘔気とか患者さんの症状に対しての薬の効果をや副作用を聞く場合は患者さんに対して不安を強くしないように気をつけてコミュニケーションをするべき。聖隷の緩和チームでは症状を聞くのはナースだけとか決めているとのこと。

9、看取りのケア(以後はハンドアウトから) 看取りの時期に医師に求められる行動 ・苦痛を気にかけ、患者に苦痛がないことを言葉で伝える ・患者の接し方を相談にのる(看護師と) 例:耳は聞こえていると思うので、お話しして下さいね。 手を握ってあげてもらってもいいですよ。など ・会話に配慮する 病室の外から医師や看護師の笑い声が聞こえないように。意識のある時と同じように患者に接する ・亡くなった後、患者と家族で過ごす時間を持てるようにする

10、終末期せん妄のケア
(1)
・不穏のコントロール
・せん妄の原因をはっきり説明
・そばにいる
・つじつまのあわない話しをしても否定しないで患者さんの世界につきあう

11、終末期のせん妄のケア(2)
パンフレットを用いた説明が知識の改善に有効 「これからの過ごし方について」というOPTIMのパンフレット(ホサナでも必ず使用しています)がとても有効で、家族にとってももう看取りの時期であると言う自覚とこれからおこることへの準備ができるという点で有用

12、死亡直前の兆候
・死前喘鳴 出現率 35% 死亡の平均23時間前から
・下顎呼吸 出現率 95% 死亡の平均2.5時間前から
・四肢のチアノーゼ 出現率 80% 死亡の平均1時間前から
・橈骨動脈が触れない 出現率100% 死亡の平均1時間前から

簡単にまとめるとこんな感じですね。 とても勉強になりました。 森田先生ありがとうございました!
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